そーだいなるらくがき帳

そーだいが自由気侭に更新します。

そーだいなるキャリアを作った、そーだいなる登壇資料の作り方

 はてなからの依頼により、新リリースのタグ機能をさっそく使ってみる。

 今回のテーマは「エンジニアのキャリア」ということで、以前にも書いたが、考えてみると自分のキャリアはコミュニティと共にある。 特にデータベース界隈のコミュニティで存在感を示したことが、その後のキャリアアップにつながった。

 じゃあコミュニティでどうやって存在感を出してきたんだっけ?と考えると、それは表題につながるのだが、やはり登壇だ。

 YAP(achimon)C::Asia 2016とYAPC::Kansai 2017でベストトーク賞、Builderscon 2017ではベストスピーカー賞をいただいたし、PostgreSQLカンファレンスやPHPカンファレンスには何度も登壇している。

 大きなカンファレンス以外にもOSCで地方を巡業したり、自分で勉強会を開催したり、とにかく登壇量が多く、その内容で評価してもらった結果、自分の存在感につながり、そしてキャリアアップにつながった。

 なので今日は登壇の話をしようと思ったが、心構えとかそういう記事は前にも書いたことがある。 そこで、よく質問を受けることでもあるし、自分なりの「登壇資料の作り方」の話をする。

登壇資料を作る前に読んでほしい記事

 まず最初に、自分が強く影響を受けた記事を3つ紹介する。登壇をどのように準備するかの全体像が分かるはずだ。

blog.shin1x1.com

www.servantworks.co.jp

yapcasia8oji-2016mid.hachiojipm.org

 また、先ほど触れた登壇の心構えみたいな記事もあわせて紹介する。

soudai.hatenablog.com

 これらを踏まえた上で、そーだいって人がどんなことを考えて、どんな手順で資料を作っているかをこれから説明する。

1. アウトラインを作る

 まずは兎にも角にもアウトライン。 ちなみにブログを書くときも原稿を書くときもアウトラインを書くところから始める。 CfPを提出するような場合は、CfPを書く時点である程度のアウトラインを決めておく。

 ブログで言えばタイトルと見出しだが、登壇資料では次のようなことを決める。

 アウトラインを決めるときに大事なことを、もう少し深堀りする。

一番喋りたいことを決める

 登壇を申し込むときには、自分が何を喋りたいか? は決まってるはずだ。 それを一言で表すとテーマだし、それがタイトルになる。 「一言でまとまらないな…」ってときは、話のスコープが広すぎる。 もっとシンプルにスコープを絞っていこう。

 自分の失敗としては「RDBアンチパターン」のように強くてスコープが広いタイトルで何度か登壇していると、違う資料なのに「名前が一緒だから同じだろう」と思われることがあった。 それはそれでもったいないし、今から思えば例えばアンチパターン名をタイトルにするなどもできた。スコープが整理できていない例である。

プレゼンのゴールを決める

 伝えたい相手がそのプレゼンを聴いたとき、どんなアクションをしてほしいだろうか? 「紹介したフレームワークやライブラリを使ってほしい」「自分の考えたアーキテクチャについてディスカッションがしたい」などあるだろう。 プレゼンを聴いたターゲットにアクションしてほしいこと=ゴールだ。

 自分はアジェンダを作るときに必ずWhat is it?を最初に書くし、プレゼンもWhat is it?から始まる。 つまり、ゴールを聴衆と共有してからプレゼンを始めるのだ。 それは、アジェンダを作るときに、自分がどんな資料を作りたいのか? にもつながる。

誰に一番伝えたい?

 次に大事なのは、自分が喋りたい内容を誰に伝えたいか? つまりターゲット設定が大事だ。 伝えたい人が特にいないなら、ブログのほうがコスパがよい。 登壇である以上、聴衆がいて、聴衆に伝えたいことがあるはずだ。 そして参加者全員に伝えることは難しい。

 自分がどんな人に伝えたいかを想像しよう。 例えば、Webエンジニアで10年モノのシステムをメンテナンスしてる人、フロントエンドでReactをバリバリ書いてる人、MySQLスペシャリスト、それぞれ背景も違えば共感ポイントも違う。 だからこそ、誰向けに話をするのか?ということはとても大切なのである。

 そしてターゲットも、テーマと同様にスコープを広げすぎないことが肝要だ。 みんなに刺さらないプレゼンよりも、たった一人でも設定したゴールにたどり着く方が良いプレゼンである。

 このようにテーマ、ゴール、ターゲットを設定すれば、その間の過程、つまりプロセスをアジェンダとして書き出していけるはずだ。

自分なりの考えや学びを織り込む

 いよいよアジェンダを決めていく。 起承転結や、冒頭で紹介した新原さんのブログにある「動機、背景、検証、結果、考察」など、アプローチはいろいろある。 自分の中で話しやすく、ストーリーが考えやすい方法を採用しよう。

 ここで重要なポイントが、自分だけのノウハウを語ることだ。 「ツールを使ってみた」という話であっても、「○○と比べて、この部分で改善されていて良かった」「インストールが簡単と謳っているが、必要条件が厳しく、ネイティブアプリなので、Webアプリの方が使い勝手が良い」みたいな考察があると良いだろう。

 もっと良いのは、自分が経験したトラブルを、どのように解決したか? というストーリーがあると、聴衆も得るものが多い。 あなたが失敗して困った部分は、誰かが未来に困るかもしれないし、同じような解き方を伝えることができる。 このように自分としては当たり前でも、他人にとって価値が高いことに意味があって、それをトークに忍ばせることが、プレゼンを引き立てるスパイスになるのだ。

心が感じて動くから感動

 感動することは、英語でもbe moved byと言う。 そして、心が感じる状況もいくつかある。 共感や興奮、感嘆などさまざまな心の動きのうち、自分のセッションで与えることができるかものは何かを考えておくと、ゴールで設定したアクションを導きやすくなる。

 人は、心が動いた結果、感動し、そして行動する。

2. 登壇資料としてまとめる

 アウトラインを作り、資料に着手すると、スライドとしてはこんな感じになって実質完成する(完成してない)。

 ここからは、アウトラインを資料に落とし込む中で大事なことを説明していく。

What is it?

 ゴールの際にも説明したが、資料を作るときはまずWhat is it?に着手しよう。 資料を作っていくといろんなアイディアや、盛り込みたいネタがどんどん出てくる。 そしてまたスコープが広がっていく。

 そんなときにはWhat is it?を振り返ろう。 What is it?で設定した内容のスコープ外のアイディアやネタは、思い切ってバッサリ切る。 喋れる時間は限られているため、脱線を防ぐためにも、最初にwhat is itを整理する。

共感とアイスブレイク

 プレゼンは面白おかしくする必要はない。 時事ネタや自虐ネタで笑いを誘うことも一つのテクニックだが、無理に盛り込む必要はない。 伝えたいゴールは別にあるはずなので、不要な回り道は避ける。

 ただしアイスブレイクは、聴衆にとっても自分にとっても重要だ。 そのためにはWhat is it?のタイミングで、みんなが共感しそうなことを話題にすると良い。 What is it?で共感が得れれば、その後の本題に聴衆は吸い込まれていくし、説明してない部分も聴衆の経験で補完されていく。

 アイスブレイクは、聴衆の想像力を駆り立てるトリガーなのだ。 自分の言葉を、聴衆の想像力でより深く理解してもらうために、おすすめのテクニックだ。

言いたいことは3つまで

 アジェンダの項目は、多くても3つまでにまとめよう。 4つ以上は、自分も相手も覚えられない。

 同じように1つのページやコンテンツで伝えたいことも、3つまでに絞る。 もし4つ以上が必要なら、それは責務が大きすぎるのでページを分解したり、スコープを絞る必要がある。

 まとめるときは「3つに絞る」を意識しておけば、スライドはシンプルに伝えやすい形になるはずだ。 また4つを超える場合には、それぞれを個別に説明する必要があることもあわせて覚えておくこと。

良い図面は言葉に勝る

 良い図面を作れば、言葉を減らすことができる。 要素を3つまでにまとめるためにも重要なことだ。 良い図面があれば、4つあった要素を3つ、2つと減らすことができる。

 冒頭で紹介した「失敗から学ぶ登壇のそーだいなる歩き方」という記事でも、同じように説明している。

図面を作るというのは大切だ。言葉で説明が難しい場合は図面にしよう。 もし、図にすることが自分の中でできない場合は「自分の中で理解が浅い」と受け止めていいだろう。 そして図という抽象化が出来ないほど理解が浅いのであれば言葉で説明するのはより難易度高い。 だから図面を作るというのは大切だ。また良い図面は言葉を減らしてくれるし、スライドの枚数も減らしてくれる。 また手が込んだ図面で無くても良くて、正しい抽象化され、わかりやすいシンプルな図面が良い図面だ。 だからおもしろい画像を探すより、自分の意見を伝える図面を作ることの方が大切だ。

プレゼン資料はあくまでもツール

 プレゼン資料はあくまでツールだ。 こだわりすぎるよりも自分が喋りやすい、使いやすいツールを使うべきだ。 キレイな図面を作ることは間違っていないが、そこに工数を掛けすぎず、まずは一回素振りをする。 完全に完成する前に素振りをすると、喋りにくい箇所が見えてくる。 そこは自分の中で整理されてない部分だから、さらに深堀りする。

 ただし素振りをすればするほど、無限に手直ししたくなることがある。 その場合は、もう一回アウトラインを見直そう。 当初の予定よりテーマやゴールがずれているなら調整が必要だし、テーマ設定が間違っているなら変更が必要だ。

 テーマやゴールが違えば当然、資料の内容も変わってくる。 場合によっては作り直しにもなるだろう。 発表資料は二度死ぬ。

 ただし三度目はオーバーキルだ。 そもそも3回も作り直したいときは迷走している。 その場合は、今のやり方で上手く行かない原因を深堀りすること。

一番大事なことは情熱

 資料作成と素振りの繰り返しの中で、本当の意味で資料が洗練されていく。 そして洗練された資料を使いこなすために、一番重要なのは伝えたいことに対する熱量だ。 プレゼン資料に一番必要なのはkeynoteでもPowerPointでもなく、Passion。

 ツールにこだわり過ぎないようすること。

3. 資料が完成したら

 最後は、声に出しながらその資料を通しで練習する。 最低でも3回やる。 1時間のセッションなら1回1時間かかる。

 だから資料を作り始めるのは、前日では間に合わない。 また1回素振りをしても、日を空けて2回目の素振りをすると違和感を感じることもある。 同じように資料を洗練させていく。

 3回目の素振りの頃には、通しでスムーズに喋れるようになっているはずだ。 あとは前日にはしっかり寝て、本番に備える。

終わりに

 最初は時間が掛かる。 数時間どころか、数日掛かるものだ。 しかし慣れてくると、整理するスピードも上がるし、言語化もできるようになってくる。 これは仕事でもたびたび活きるスキルだ。

 最後まで読んでくれた読者も、これを機にぜひ登壇にチャレンジしてほしい。