最近、1on1で同じ話を何度かしたので、ここに整理して残しておく。
生成AI・LLMが当たり前になりつつある今、「これから自分のキャリアをどう築けばいいかわからない」という相談を受けることが増えた。 新卒から自分と同世代*1まで、悩みの種類は違っても不安の根っこは似ている。
そのときにセットで話すことが多いのが、能力の伸ばし方とキャリアの積み上げ方だ。 能力の成長ステップは、こちらの資料に詳しくまとめている。
この記事では、主にキャリアをどう築くか、に絞って書く。
キャリアの築き方:土台を広げ、実績を積む
キャリアは、積み木を積み上げていくようなものだ。 細く高く積むと、ちょっとした揺れで簡単に崩れる。たとえば、一時的な特需に合わせて実績の高さだけを優先して積むと、環境が変わった瞬間に吹き飛ぶ。
だからこそ重要なのは、土台(基礎)を広く、強くすることだ。 土台がしっかりしていれば、ピボットもできるし、多少の揺れにも耐えられる。 その上に経験を積んで高さを作っていくのが王道である。
土台は、基本的に知識と経験で広がっていく。 ここは能力の伸ばす話なので上記の資料を見てほしい。
能力は最初は急激に伸びるが、どこかで伸び悩むタイミングが来る。 そのときに「次のレベルへ行くために土台を作り直す」こと自体は悪くない。 ただ、全く違う領域を始めるよりも、隣接領域へ広げるほうが効率的な場面が多い。
土台が広がり、知識と経験が組み合わさると「知恵」になる。 知恵が増えるほど、より大きな仕事を任されやすくなる。 大きな仕事をやり切ると実績が積まれ、次の大きな仕事が回ってくる。この循環が、キャリアの高さを作る。

最初のステップ:方向性を探し、基礎を固める
キャリアの話をするとき、最初に勧めていることは2つある。
- キャリアの方向性を探すこと
- 基礎を固めること
それぞれについて説明する。
1. キャリアの方向性を探す
キャリアの方向性は最初から決まっていなくていい。ただ、基礎を固めるフェーズでは、ある程度の方向性があるほうが効率が良い。 たとえばソフトウェアエンジニアとして積むのか、セールスとして積むのか、プロダクトマネージャーとして積むのか、で求められる能力も変わってくる。
年齢が十分に若い、例えば20代であれば方向性は途中で変えてもいいし、複数を経験するのも良い。 むしろ、その過程で 自分が楽しいと思えること や 大事にしたい価値観 に向き合うことが大事だ。 人生は長く、仕事に費やす時間も長い。だからこそ、価値観に沿った方向性を見つけられると強い。
2. 基礎を固める
方向性がある程度定まったら次は基礎を固める。 固める基礎は職種によって異なるが、共通して役に立つのは、ビジネスの仕組み、仕事の進め方、コミュニケーションの基礎力だ。 これはどの職種でも必要なため投資対効果が高い。
その上で、職種ごとの基礎がある。
- ソフトウェアエンジニア
- プログラミング基礎
- アルゴリズムとデータ構造
- システム設計
- ネットワーク
- セキュリティ など
- セールス
- 営業プロセス
- 会計管理
- 経済行動学
- マーケット分析 など
ここで大事なのは、知っているだけでは基礎にならない ということだ。 本を読んで理解したつもりでも、実際に手を動かし、行動し、失敗し、改善して初めて「使える基礎」になる。
つまり基礎を固めるフェーズには一定量の行動が必要だということだ。 そのためには体力と時間が要る。 20代は比較的そのリソースが使いやすい。
逆に30代以降で新しく挑戦するとき、基礎固めは正直簡単ではない。 知識はお金で補える部分があるが、経験のための行動には時間と体力が必要になる。 家庭や健康など制約が増える中で新たな基礎を固めるのは難しい。 少なくとも、一度は基礎を固め切った経験 がないと厳しい。
だからこそ、20代のうちに一度 基礎を固めて土台を作る 経験を持っておくことは、その後の選択肢を大きく広げる。 逆に基礎を固めず、土台がないと、選べる道が狭まり、制約になりやすい。
意思決定が実績を作る
基礎を獲得し、土台を作ったら、次はそれを使って「実績」という建物を作るフェーズだ。 実績を作る上で重要なのは、単に作業をこなしたことではない。 責任ある仕事をやり切った経験、言い換えると 意思決定に責任を持ってやり遂げた実績 である。
意思決定には 判断 と 決断 がある。
- 判断:情報が揃っていて、合理的に選べる範囲の選択
- 決断:情報が不十分でも、意思決定し、結果に責任を持つこと
判断できる範囲を広げるのは基礎で可能になる。 一方で、どこかで 判断できないサイズの仕事 を任される瞬間が来る。 そこが、決断できるかどうかがその後のキャリアを決めると言っても過言ではない。
決断のコツについては過去に資料を作っているので、こちらも合わせて読んでほしい。
問題のサイズが大きいほど、決断の結果が見えるまで時間がかかる。 だからこそ、小さく分けて進め、細かく調整しながら、結果を見届ける必要がある。 なぜなら、結果を見届け、ふりかえったときにはじめて意思決定の良し悪しがわかり、実績として積み上がるからだ。
やっただけ、では仮初の実績にしかならない。 意思決定をし、結果に責任を持ち、結果を見届け、振り返る。 ここまで含めて実績なのである。
実績がブランドを作る
実績がある程度積み重なると、自分のブランドが形成される。 たとえば自分なら、データベースのスペシャリスト、開発組織立ち上げのエキスパート、技術登壇のプロフェッショナル、といったブランドで認識されることがある。
ブランドは、自分の能力を示すシグナルになる。 私も40代になって強く感じるのは、ブランドをきっかけに仕事の依頼が来るケースが増える。
そして一定の年齢・年収帯になると、より「成果」が求められる。 成果を出すには再現性が必要で、再現性がない仕事はそもそも任せづらい。 組織は失敗リスクを避けたい以上、 成功確率が高い人に仕事が集まる ようになる。
その結果、ブランドに沿った仕事が回り、類似の実績がさらに積み上がる。 すると、ある程度『自分の仕事』が固定化されていく。

逆に言えば、40代が近づくほど、構築されたブランド以外の仕事を得るのは難しくなる。 コンフォートゾーンが出にくいという問題もあるが、もっとシンプルに 仕事が回ってこない ことが起きる。
目の前の仕事に、価値を追加できたか
キャリアを築くうえで、もう一つ大事な視点を挙げておきたい。 それは 目の前の仕事に価値を追加できたか? という問いだ。
たとえば MySQLのバージョンアップという仕事があるとする。
ゴールがバージョンアップ完了、である以上、極端なことを言えば、誰がやっても達成の結果は一緒である。
では、自分がアサインされたときに「あなたに任せたおかげで、価値が出た」と言われるには何が必要か。 たとえば、こんな付加価値が考えられる。
- 再現性のためにドキュメントを整備する
- 事業インパクトのために無停止でバージョンアップを実現する
- 将来の運用コストを下げるために自動化を進める
このように、目の前の仕事に付加価値を乗せられる と、自分だけの 固有の実績が積み上がる。 そして付加価値を作るには、基礎が必要になるし、意思決定の責任も伴う。
このサイクルを今までに何回、やってきたかが、あなたのキャリアを決める。
おわりに
ここまでキャリアの築き方を説明したが、キャリアを築くこと自体は人生のゴールではない。 あくまで手段(How)にすぎないので、囚われすぎないほうがいい。 Why、Whatを大事にしよう。
一方で、年齢を重ねるほど、これまでの実績の延長線上で仕事を選ぶ比率が高くなる。 人生の多くの時間を仕事に費やすのなら、自分が楽しいと思える仕事 を選べる状態にしておくのは重要だ。
そのために必要な考え方として、土台を広げる 、 意思決定で実績を作る 、 目の前の仕事に価値を足す を紹介した。
*1:執筆時点で41歳